葉山時間

Column

【コラム】北欧の暮らしとごはん #03 Jul〜スウェーデンのクリスマス〜

毎年、慌ただしく感じてしまう年末。今回は私のスウェーデンの家族のおはなしを中心とした、クリスマスの過ごし方をご紹介いたします。

スウェーデンでは、3大祝祭として、イースター、白夜祭、クリスマスがあります。その中でも一番大きな行事は、やはりクリスマスです。とはいっても、日本のようにカップルのロマンティックな日ではなく、家族の日、お正月のような雰囲気です。

家族の日なので、友達や恋人と二人きりで過ごす事がなく、24日は大きなデパートなどのお店もほとんど閉まっています。一番大きな祝日ですので、職種にもよりますが、仕事は通常の倍以上の給料になります。雇用主的には給料も多く払わなければならないのに、人はほとんど街にいないので、店自体を休みにしてしまった方良いと考えるようです。もちろん公共機関や病院、スーパーなどは開いていますが、クリスマスに働くのはどんなにお金をたくさんもらえても、かなり苦痛な事のようですね。

11月中旬からデコレーションで街は華やかになり、家の中もキャンドルやクリスマスの飾りで暖かい雰囲気になります。

私の家族は、23日にみんなが両親の家に集まり始め、クリスマスが始まります。クリスマスのお料理は手間も時間もかかるので、23日の夕食は簡単なものが多く、時にはテイクアウトをして食べる事もありました。

食事を済ますと、ここからプレゼントのRhyme(ライム)作りが始まります。この“ライム“、日本語に訳すと韻を踏むという意味なのですが、ヒップホップの音楽の歌詞に出てくる、同じ音の言葉を繋げてリズム良く聞こえるようにする事です。

とはいえ、特にそんなラッパーな家族という訳ではなく(笑)、一般的なスウェーデン家族もしているそうです。プレゼントを開ける前に、「はいどうぞ」とただ手渡すだけではなく、プレゼントの中身を開ける前にその韻をふんだカードを読んでから渡し、 “箱の中身はなんじゃろな” 状態にして、ワクワクした気分でプレゼントを開けるという感じです。

メッセージカードを書く時は、みんなで一緒に書くのですが、渡す相手がその場にいてはプレゼントの内容がバレてしまいますので、渡す相手は違う部屋で待機してもらいます。私の家族は、両親と息子3人+各パートナーなので8人分のメッセージカードを作るため、かなり時間がかかります。

初めてクリスマスを一緒に過ごした時は、まったくスウェーデン語もわからなかったし、言語がわかってきたその後も、それをする意味もわからず、プレゼント渡すのも一苦労だわ…、と文化も言語も母国ではない私にとっては少し疎外感を感じる行事の一つでした。日本語のラップの歌詞をかけと言われても、「!?…」という感じなのに、 “スウェーデン語でなんか書けるかいっ!(笑)” という感じでまだまだ苦手意識の残るクリスマス行事ですが、それでも他のみんなはとっても楽しんでいるので (特に主人が…)、私のネガティブな気持ちを含め、23日はクリスマスが始まったなぁと感じ始めます。

そんなこんなで24日の朝、目が覚めるとベッドの横には大きな靴下の中にたくさんのプレゼントが…!お菓子や小さなプレゼントがぎっしり入っています。本当のプレゼントの予備プレゼントのようなものです。

ママとパパにとって、息子たちはいつまでも小さな子供なんだなぁと感じさせる朝。

前日はメッセージカード作りで遅くまで起きていたので、子供たちはゆっくり朝寝坊ですが、両親は食事の準備で大忙し。

スウェーデンのクリスマスの食事はJulbord(ユールボード)と言って、家庭でもビュッフェスタイルの食事が並びます。

代表的なお料理はニシンの酢漬け(マスタード、カレー、クリームなど何十種類も味があります)、スモークやディルでマリネしたサーモン、エビ、ミートボール、ヤンソンの誘惑(アンチョビポテトグラタン)など、たくさんのお料理が並びます。メイン料理は、クリスマスハム。塩漬けした豚をハムにし、上にマスタード、卵、パン粉を使ったソースをかけてオーブンで焼き、林檎のジャムをつけて食べるという、とても美味しいお料理です。

大昔のスウェーデン、今のように輸入して食材がなんでも手に入る時代ではなかった頃、長い冬を生き延びる事は、生死に関わる問題でした。今は一年中どこでも同じような食材が世界中、買えるような時代ですが、昔はそうではありませんでした。特に厳しい寒さが長く続く北欧は、野菜がほとんど育ちません。そのため、伝統料理は酢漬けや、塩漬けした保存食が多いのです。

クリスマスハムは一年間の農作物、収穫された物に感謝をし、豚の命を頂き、神様に捧げてからそのお供え物を頂き、冬を越すために体を蓄える、いちばん贅沢なお祭りでした。話はそれましたが、そんな背景のあるお料理を食べながら、家族団らんの時を過ごします。

食事を終える頃、夕方の外はもう真っ暗です。食卓から席をソファーに移動し、お菓子やお茶の時間が始まり、ママがクリスマスの絵本を静かに朗読します。読み終えるとプレゼントを開ける楽しい時間の始まりです。

クリスマスツリーの下に置いてあるたくさんのプレゼントを開け、キャンドルでいっぱいの部屋の中、外は寒いけれど家の中はとても暖かく、幸せいっぱいの家族の休暇です。

もうすぐ、クリスマス。不安や戸惑いが多かった2021年でしたが、皆さんの心が温かく幸せな年末を過ごせますように。みなさんメリークリスマス!God jul!

Melting potオーナー
原ベックマン 彩子

鎌倉に生まれ育ち、スウェーデン人の夫と暮らす。服部栄養専門学校卒業後、世界の食文化に興味を持ち、さまざまなジャンルの飲食店で働く。カナダではベイカリー、スウェーデンではレストラン勤務を経て、鎌倉・長谷にスウェーデン料理を取り入れながら、カナダで学んだバターミルクビスケットやスープをメインとしたカフェ『Melting pot』を経営。現在に至る。

Melting pot
神奈川県鎌倉市長谷2丁目21−5
営業時間:8:00〜15:00
定休日:日曜、祝日

 

 

Column 一覧