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#編集部ののんびり葉山だより 〜硬い食パン〜

硬い食パン


日に日に風の涼しさが冷たさに変わり始め、葉山の木々も少しずつ秋色に変わってきました。毎年、中秋の名月の日(今年は9月
21日でした)は個人的にとても楽しみな日となります。私にとって中秋の名月は年に一度、待ちに待った手作りパンをプレゼントしてもらえる日なのです。

いつの頃からか、中秋の名月の日になると近所の坂上さんのところへススキと秋のお花を献上し、お花のお礼に自宅のお庭の窯の薪で焼いたパンを頂戴するという2人だけの儀式が執り行われます。まさにこの日は私にとっての秋のパン祭り、いや、秋の例大祭となります。その理由は今まで食べたどんなパン屋さんのパンよりも美味しいと感じる食パンとフランスパンを頂けるからです。坂上さんの話によりますと長期滞在していたフランスの片田舎では週に一度、村の広場に設置してある大きな窯で村人達は薪とパン生地を持ち寄り、1週間分のパンを焼いてお家に持って帰るそうです。そのパンが実に美味しかったそうで作り方を村人から教えてもらい日本に帰国後、お家に窯を作りずっとその味を再現されているとのこと。

世の中、やわらかい生食パンばかりが出回っているこのご時世に、フランス田舎仕込みの坂上さんの手作り食パンは私にとって食パンの概念を打ち砕かれるものでした。

この食パンの外側は焦げております。綺麗なキャメル色をした街売りの生食パンに比べ、なんと無骨な容姿でしょうか。外側の焦げた茶色の食パンは日に焼けた労働者のような雰囲気があり頑固さが伝わってくるような…、その容姿は食パンのイメージから大きくかけ離れているのです。

そしてその重さ。
抱えた手の中で1斤の食パンの重みを感じます。

ノコギリで木を切るかのようにパン包丁でギコギコと切っていくとイーストの心地よい甘い香りと小麦の香りがパン包丁の間から漂ってきます。食パンを軽くオーブントースターで焼き、熟成バターを塗って実食。普通の食パンだとサクっとしてから、さらっとパンが本体からちぎれ、口の中にやわらかく入ってきますが坂上さんの食パンは違います。力を込めて食パンを噛み切らないとパンのピースは口の中に入りません。そして、口の中でパンを何度も何度も反芻していくと、小麦本来の旨味が広がっていくのです。

この噛む食パン、坂上さんが狙って作っているそうなのですが、噛み続けていると味わえる旨味と口の中で繰り広げられる小麦との会話こそが、今まで市販の食パンでは味わったことのない世界なのです。

ここまで読み進めてこられた読者の方々は私の意味不明な食リポにちょっと戸惑いを隠せないかもしれません。簡単に言うとスルメを食べた時のあの感じに近いものがあるのですが、スルメと一緒にしたくない自分がいます。

小麦と対話のできる食パン。
今年も中秋の名月、至福の時を過ごすことができました。

また来年、楽しみにしています。
御馳走様でした。

Hiroto

 

#編集部ののんびり葉山だより
日頃から、逗子、葉山や湘南エリアでの暮らしを楽しんでいる葉山時間編集部が、ランダムに日々の出来事や日常で見つけた葉山の情報などをお届けするコラム。その名のとおり、のんびり気味に(笑)。

 

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