葉山時間

Column

【インタビュー】逗子茶寮凛堂-rindo- 亭主・山本睦希さん

逗子・葉山駅のすぐそばに佇む現代茶室「逗子茶寮凛堂-rindo-」。緊張しながらも、初めて暖簾をくぐった瞬間、目に飛び込んできた茶室。私はすぐに夢心地となり、魅了されていったのを鮮明に覚えています。そして、「逗子茶寮凛堂-rindo-」亭主・山本睦希 (以下: 山本 )さんの美しい所作と心のこもったおもてなしで、さらにそこにある世界へ引き込まれました。まもなく葉山時間では、山本さんのコラム『茶ノ一滴、酒ノ一献』がスタートします。今回は、コラム公開前に山本さんへたっぷり取材を行いました。

日本人にしかできないこと、日本人のソムリエだからこそやらなければいけないことがある

「日本の守るべき文化や伝統を、現代茶室という舞台で食を通して日本人だけではなく、世界中の方々へ訴求していくことにより、茶や酒の生産者、なくなりつつある伝統工芸の生産者を支えることができます。それは、日本の文化や伝統を守る第一歩になります」 と語るのは、逗子・葉山駅のすぐそばに佇む現代茶室「逗子茶寮凛堂-rindo-」亭主の山本さん。暖簾をくぐった先に広がる現代茶室。こだわり抜いた陶器、生産者の思いを馳せた茶葉、お酒、食材。丹精込めて作られた和菓子。そして、心のこもったおもてなし。どれをとっても新鮮で、五感で楽しめる空間がそこにありました。

出身は京都。銀座の会員制レストランで修行を積み、憧れのソムリエの下で下積みを経験、25歳で渡仏。そこで出会ったフランス人のソムリエから 「みんな母国のワインが一番だと胸を張って伝えているのに、日本人はなぜフランスやイタリアのワインを売るのか。なぜ、日本のワインリストの90%は外国のワインなのか…」 という質問に考え方が180度変わったという山本さん。

「それからというもの、日本各地の地酒 (日本酒、ワイン、焼酎、ウイスキー)を生産する蔵元、ワイナリー、蒸留所に仕事が休みのたびに訪問しました。“どんな人がどんな想いを込めてどんな場所で造っているのか” を学び、日本の生産者を守ることができるのは日本人しかいない。という現状を目の当たりにしました。日本人に生まれ、そしてサービスマンという生き方を選んだ以上、日本人にしかできないこと、日本人のソムリエだからこそやらなければいけないことがある。これを軸に物事を考えるようになりました」

下積みの期間を終え、葉山のホテルに勤務した山本さんですが、酒のプロでこのままいくだろうと思っていたところ、新規立ち上げのプロジェクトで仕事の一部として茶の世界に足を踏み入れたことが、「茶」との出会いだったそうです。

「裏千家の先生の下で、長年稽古を積まれてきた方に同じく私もご指導頂きました。茶の世界を知っていくうちに自身に課した使命を果たすには、絶対に必要な世界だと確信し、自らより深い茶の世界へ踏み込むことを決意しました。茶の世界、いわば “茶の湯” の精神を学ぶにつれ、日本の心、守るべき文化や伝統が凝縮されているのが茶であり、身近にありすぎて知らない世界だと思うようになりました」

そして、技術、知識ともに日々研鑽に努め、会社員を辞め、独立し自身の店を構えたのは、2021年5月。

「店を構えることは、下積み時代から一つの目標でした。酒のプロであり、自身に課した使命があるので、 “地酒 (ワイン、日本酒、焼酎、ウイスキー)に特化したBAR” にしようと思っていました。茶との出会いや思い、茶の湯の精神が取りまとめてくれたような感覚でしょうか…、自然と設えは 「茶室のような空間で、店内は日本に古くから根付く “二十四節気” にて季節や旬を感じて頂き、日本の地酒を愉しんで頂く。それこそ日本の粋そのものという思いがありました」

そんな明確なイメージと、これまで山本さんが学んできたことが凝縮したようなお店、古きものと新しきものが合わさった日本でたったひとつ、『現代茶室』 というテーマを置いて設計された 「逗子茶寮凛堂-rindo-」。 逗子という場所を選んだことにも理由がありました。

「葉山に親戚が住んでいて幼少期から逗子や葉山へ遊びに来ることがあり、幼いながらも良い場所だな、と思っていたのかもしれません。お客様からもよく 「京都じゃないんだ」 とか、「もっと良い場所があるのになぜ…」 と聞かれますが、自身の使命を思い返したとき、果たす場に相応しいのは逗子だと思っています。いろいろなライフスタイルの方が住む町で、なかには、1~2時間かけて、毎週遊びに来る方もいます。そんな方々を快く受け入れる町が逗子や葉山であり、良くも悪くも新しいもの、外部を受け入れる器は間違いなく京都よりも逗子や葉山の方が大きいと感じております (笑)。また、日本の魅力に改めて気づいたり、新しい発見があったり、誰かに紹介したくなる…。そのサイクルが生まれる場所はほかでもない逗子や葉山だと思っています」

お住まいも逗子のお近くだという山本さん。オフの日は、奥さまとSUPを楽しんだり、温泉へ行ったりするそうですが、一日中遊ぶという日はないといいます。

「私の仕事は人が生きるために必要な『衣食住』の『食』なので、休みにどこかの飲食店でご飯を食べることも仕事だと思っています。あとはやはり、茶や酒の仕入れに時間を使いますね (笑)」

まもなく始まる葉山時間でのコラム『茶ノ一滴、酒ノ一献』では、大項目として “食” について発信をしていく予定です。日本で食を愉しむことがこんなにも豊かなんだよ、ということを伝えていきたいと思っています」  と語る山本さんに今後の展望をうかがいました。

年齢問わず茶の世界に触れたり、日本の酒の魅力を同じように語ってくれる人が増えればいいなと思っています。それこそが生産者を守る証ですから。また、お子様向けの茶のイベントや料理人を招いて一夜限りのディナーショーなども企画したいです。同じように日本の守るべき文化や伝統、歴史を食を通して守っていきたい、と考えているサービスマンの育成にも力を入れていきたいです」

 

 

プロフィール
「逗子茶寮凛堂-rindo-」亭主

山本 睦希 (やまもと むつき)
1988年京都府京都市伏見区出身。銀座の会員制レストランにて給仕人、ソムリエの修業を経て、神奈川県三浦郡葉山町のミシュラン四つ星ホテルの専属ソムリエとして従事。“日本人の給仕人やソムリエにしかできないことがある” という思想を追求し、日本の文化や守るべき伝統、歴史を “現代茶室” というフィルターを通し、茶や酒、旬の食材など日本各地の食文化の魅力を伝えるべく2021年独立、「逗子茶寮 凛堂-rindo-」を立ち上げる。

 

逗子茶寮 凛堂-rindo-
神奈川県逗子市5-1-12カサハラビル逗子B-2F
定休日:不定休
TEL 046-870-3730
Instagram: @rindozushi

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