葉山時間

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日々使うものだからこそ、細部まで品質へのこだわりと木の温もりをほどこす。〜薗部産業〜

小田原木製品の産地として知られる神奈川県小田原市。この地で70年以上にわたり、木工製品、小田原漆器の製造・販売を行っている薗部産業。品質が高いからこそ、日々のくらしのなかで気軽に使えて、心がホッとするアイテムは「葉山時間」でも人気です。今回は実際に工場を訪ねて、薗部弘太郎(以下:薗部)さんにお話を伺いました。

 

くらしのなかで、気兼ねなく楽しく使ってもらうために

「葉山時間」編集部(以下:編集部): 豊かな森林や海に恵まれている神奈川県小田原市で1949年の創業より、木工所として原木の乾燥、加工、塗装まで一貫生産で行っている薗部産業ですが、一貫生産というのはやはり品質管理という部分では大きく影響しますよね?

薗部さん: そうですね。小田原でも乾燥、塗装、加工という感じで分業がほとんどなので、そのなかで自分たちで一貫生産しているのはめずらしく、 “最後まで責任を持つ” ことができるというのを強みとして、長年変わらずにやっています。創業当時は輸出の時代があって、海外向けにサラダボウルを作っていたんです。その後、輸入の時代を迎えたことにより、加工は中国、大事な塗装部分は日本で行うことで品質は高いまま、お求めやすい製品の製造も可能となりました。そして実は今また輸出の時代になっていて、台湾、香港、韓国、アメリカなどから問い合わせがすごく増えている状況です。うちはメイドインジャパンですが、そこに執着しているのではなく、世界中で最高品質の良いものを提供したいと考えています。

編集部:「銘木椀」は知る人ぞ知る代表作であり、認知度も高く大変人気商品だと思うのですが、「葉山時間」でも販売をスタートした、「マーメイド椀」も美しいシェイプとお求めやすい価格でとても反応が良いです!

薗部さん:  ありがとうございます。「銘木椀」にも言えることなんですが、毎日使ってもらうものだから、ストレスがなく取り入れやすいデザインを作り続けています。そういった意味では手を添えてすっぽりとおさまるデザインというのは、どこかの指に力が入るわけでもなく、いちばんしっくりとくるものなんです。

編集部: ショコラと言われている濃い色味やシャープさは、味噌汁椀としてはもちろんですが、具沢山の洋風スープにもすごく合うと思いますし、編集部では麻婆豆腐との相性も抜群という声も出ております(笑)。豊富なデザインだけでなく、1cm単位でサイズが違っているなど、選びやすい商品が多いのも印象的ですよね。

薗部さん: うちはデザイナーって実はいないんですよ。というのも、芸術ではなく日々の道具なので、“絵に描いたものづくり” はできないんですよね。基本的に商品企画は僕と母で担当しているのですが、自分たちのくらしのなかで欲しいものを作りたいと思っているので、実際に妻や友人の意見を参考にしたり、何パターンも試作品を作って使ってみたり…、という過程を大切にしています。僕たちが作りたいものって、エッジの効いたデザインで一瞬評価される商品でも、ヒット商品でもなく、ロングライフデザインにこだわっているので。

編集部: 実際の商品仕様についてもお伺いしたいのですが、木製の商品はメンテナンスが大変…、という印象もあるけど、薗部産業の製品はほかの食器と同じように洗剤で洗って乾燥させて使えたり、耐久性に関しても気を使わなくて良いのもすごく嬉しいポイントです。

薗部さん:  僕たちの商品はお客様に手間を取らせずに楽しんで頂きたいので、耐久性という面ではすごくこだわっています。塗装にはウレタン塗装を採用していて、染み込ませる塗装が2工程、膜をつくる塗装が2工程の計4工程をほどこしています。これは実はめずらしいことで、言ってしまえば1工程でも見た目は変わらないですし、使えるんです。安いうつわを見てもらうとラッカー塗装が採用されていることが多いのですが、それだと薄いですし、すごくテカテカしていると思うんです。木ってテカリはないですから…。「木」本来の風合いを活かしながらも、高い耐久性を実現できるようにしています。

編集部: 「銘木椀」も塗装しているんですか?

薗部さん: そう言って頂けたら、僕らにとっては本当に嬉しいことです(笑)

編集部: 品質の部分では、木の乾燥工程がすごく重要でよく「○年寝かせた…」というようなことも聞きますよね。

薗部さん:  確かにそう言った言葉はよく聞きますよね。それは半分は正解ですが、半分は間違っている部分もあって、僕たちが使っている木もブロックのまま乾燥しようとすると何年もかかってしまいます。木って切ったばかりのときは重さの80パーセントくらいは水分なので、そのまま加工すると変形したり割れる原因となるので、水分量を10パーセント前後まで減らすために乾燥という工程が必要なんです。僕たちの場合、ある程度お椀になるところまで削り出す「荒木取り」という作業をしてから乾燥させることで、約半年ほどでムラなく乾燥させることができるんです。木は生きていて呼吸をしているので、冬は乾燥していて枝がポキっと折れやすかったり、青々としているときは水分を含んでいるのでしなりますよね。ですから、乾燥させるには冬を何度も越す必要があります。僕たちの工場の乾燥室は冬の状態を人工的に作り、水を吐かせているのも特徴なんです。

編集部: 木の製品ということで、お椀の耐熱性も気になるところなんですが…。

薗部さん: 100度以下でお使い頂くようにお願いをしています。実際に汁物などは、沸騰しているときは100度ですが、お椀によそうときは温度が下がっているので日常的にお使い頂けると思います。100度を超えると何が起きるのかというと、塗装のウレタンがダメになるのではなく、木のなかに残っている10パーセントの水分が蒸気になってしまうんですよ。水分が0パーセントになってしまうと、外気の水分を吸ってしまうので、ウレタンと木の間に隙間ができたり…、といったことが起きる場合があります。逆に水分が多すぎると今度は吐き出すので、割れてしまったりもするんです。お椀になっても木は生きているので、10パーセントという水分量にすることは、とても大切なことなんです。

編集部: なるほど。すべての工程が製品の高い耐久性、耐熱性を備えた品質と紐づいていることがよくわかりましたし、一貫生産である強みを改めて感じました。

薗部さん:  僕たちの仕事はもちろん「ものづくり」で品質の良いものをお客様にお届けすることですが、同時に材料原でもある木に次の人生や運命を与えられる仕事でもあります。例えばソメイヨシノの木って樹齢が50年程度なんですが、腐ってしまったあとは燃えるゴミにするしかないんですよね。例えば僕たちが30年程度で伐採をして加工することで、木にもうひとつの人生を与えることができます。最後は燃えるゴミになったとしても、そこから出る二酸化炭素で次の木が育つ、いわゆるバイオマスの考え方を大事にしています。次の木のために何ができるかを考えるところまでで、冒頭にお話しした “最後まで責任を持つ” という意味になると思っているんです。

編集部: 今回の取材では、ブランドの考え方や「ものづくり」への過程を伺うことができて、ますます商品への愛着が湧きました。最後に「葉山時間」の読者におすすめの使い方などあれば教えてください。

薗部さん: ラフに使って頂きたいですね。きっと葉山や横須賀、鎌倉の綺麗な色の野菜にも合うし、仕事が忙しい女性でしたら袋に入っているサラダや、シリアル、ヨーグルトなんかに使ってもらうだけで素敵な食卓になると思うんです。僕たちの商品の究極はコンビニなどのお弁当だって美味しくできると思っているので…。アクティブな方も多いと思うので、海やアウトドアにも持っていってぜひ楽しんでもらいたいです。


今回の取材では、「葉山時間」編集部に工場を特別に見せてくださいました。

お椀の形成の様子。誤差は1~2mm程度という削りも職人のなせる技

自分の使う道具は自分で。道具を作ることも仕事のひとつ。


こちらも乾燥を終えたうつわの形成の工程。滑らかな作業で次々と。

巨大な乾燥室での積み上げ作業。ベテランスタッフだととても早く積み上げることができるそう。

 

今回お話をお伺いした薗部弘太郎さん。
ありがとうございました。

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